今月の俳句「十月」2021
もくじ
台風の 風豹の子ら 窓に鳴く
台風当日の窓からはヒュヒューと風の音がしきりに聞こえてくる。
それが私には猫科の動物の子らの声のようにきこえていた。
それは例えば 豹のようなものかもしれない。
チべットには雪豹という豹がいるらしいが、台風が連れてくるのは目には見えないが 風豹という獣なのかもしれない。
雨戸明け 朝を入れたる 野分後
野分は台風の古語
猫のごと 腹鳴いており 芒原
空腹になると腹の虫が鳴くということは聞いたことがあるが 私は空腹とは関係なく腹が鳴ることがある。
きっと自律神経の関係なのだろう。腹の虫が鳴くというとそれは胃袋から出ている音のようにも思えるが、私の場合は腸の動きから出ているような気がする。
それが 今日は猫がごろごろのどを鳴らしているような感じだった。
宿のゆめ 紅葉の客が 家中に
家が宿になっていたという夢を見た。
どの部屋にも紅葉見物の客が泊っていて、私は枕を持って どの部屋に寝ればよいのか家中をさまよっている。
そのうちトイレに行きたくなり、トイレを探し始めたところで目が覚めた。
灯下親し 真空管を 温めて
知人が真空管のアンプを愛用していて、私の所にそれを持ってきた。私の英国製のKEFのスピーカーにその真空管のアンプをつないで音を出してみたいのだという。
真空管が温まるのを待って いろいろとCDをかけてみる。
確かに音の粒立ちの良さが違う。
そしてボーカルの声が柔らかく聞こえていた。
パンジー 植 散歩の犬も 足を止め
植えるの送り仮名の「える」を略して 「植」と表記する書き方が俳句にはある。
「パンジー植」で 「パンジーを植えました」という意味になる。
ヘルパーさんとパンジーの苗をプランターに植えていた時だった。一足遅れて行くと ヘルパーさんが庭に面した通りに立っていた女性と話していた。
知り合いなのかと想ったらそうではないようだ。
通りの女性が少し困ったように
「この子、ここで止まってしまって 動かないんですよ。」
と言って笑っていた。
パンジーが植え終わるのを見届けたかのようにその犬はまた歩き始めた。
秋出水 土手の桜も 見納めに
千葉県茂原市の一宮川は大雨が降るとしばしば溢れだすことがあるので 当局もようやく重い腰を上げて本格的な河川拡張の工事を始めることになったようだ。
そのために付近の住民から長年親しまれてきた土手の桜並木も伐採されることになったらしい。
昔やってたの 町の運動会
運動会というと学校で行うものという感じがあるが、当地に長く住んでいるヘルパーさんの話によると 昔は町が主催して 子供から大人まで参加する運動会があったとのこと。
ある年の運動会では予定していた女子中学生のランナーが突然出場できなくなり、その代わりにヘルパーさんの小六の娘さんが代役として出場。
中学生のお姉さんランナーをゴボウ抜きの大活躍だったとか。
ところでこの俳句、会話をそのまま切り取っただけのように見えますが、音の数を数えると 俳句と同様十七音になっております。
落ち栗を 秘密の基地に 隠しおり
秘密基地というのは ある時代の少年にとってとても魅力的なもののようだ。
小学校の帰りに林の小道で落ち栗を見つけることがあった。そんなときは 野原の片隅に仲間とつくった秘密基地の柱にしていた樫の木のむろに入れておいたものだった。
久しぶり 声も聞けたし 赤い羽根
赤い羽根の集金で今年 区の役をしていた 知人の夫妻の奥さんが尋ねて来た。
ご主人は病気で自宅西洋しているということは聞いていたので 久しぶりに奥さんの元気な声を聞いて うれしかった。