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2020-07-11

七月の自選俳句(2019年以前)

浜を歩くサーファーの絵

もくじ

夏の宿編

戸を開けて 波音入れし 夏座敷

早朝の 空にドドンと 海開く

七月半ばの土曜日の朝、花火が立て続けに鳴り響いた。
「今日は もしかしたらうみびらきか」と思う。
今年もまた御宿ににぎやかな夏が始まったらしい。

 

 

浜通り 靴音満ちて 夏来たる

とびいななけば 夏景色 動き出す

とびが一羽 高い所に止まって盛んに鳴いている。台風が近付いているせいなのか
性急な鳴き方で、まるで馬が嘶いているかのように聞こえた。

 

 

炎天に 打上げられし 鯨かな

砂暑し ここが鯨の 墓となる

台風の影響で御宿の港に打上げられた鯨はそのまま立ち往生。ホテルの前の
砂浜に埋められたと言う。
 

 

サーフィンの 見える酒屋の ラムネかな

駅前に 海風届き  浮き輪たち

同じ南房総でも地形によって気温の違いが出てくるらしい。鴨川あたりは比較的最高気温が高いのに対して 勝浦や御宿が比較的涼しいのは海風が町の中まで通り抜けていくからだという。駅に降り立つとそのことが実感できそうだ。
この時期になると駅前の店では浮き輪やビーチボールなどが店先に並べられる。

 

 

潮風に ふくらんでおり 竹簾

竹簾 家を囲いて 宿開く

梅雨が明けて家の窓という窓に簾を下げて 夏の宿が始まる。

 

 

すだれ越し 海辺の街の 音届く

すだれ越しに潮騒や浜通りを行く車や音が入ってくる。

 

 

特急は 夜の海抱いて 御宿(おんじゅく)に

今年最初ノ泊り客はその日野仕事を済ませて、夜九時 東京発の特別急行若潮でやってくると言う。
座席に座った時から既に思いは夜の海へ。
そんな事を想像しながら 御宿十時 二十分着の御客を待っている。

 

 

波の音 湯浴みの音や 夏の宿

サーファーの 消灯早し 海の宿

本格的なサーファーは朝が早い。波が良ければ五時頃に起き出して浜へ出て行く。

 

 

いざ出陣 手に手に 子らの 浮き輪かな

子供も小額校の生徒ともなると、海を前にして親の用意も待ちきれない様子。

 

 

お座敷に いまだ水着の 母子(ははこ)いて

水着に着替えこれから海へという段になって子供がおねむになってしまったらしい。

 

 

放課後の 校庭のごと 夏の海

我が家の海辺に向いた窓から浜のざわめきが風に乗って聞こえてくる。
若い女性や子供の歓声、ときおり流れてくる女性のアナウンス、のどかなある日の放課後の風景が思い出された。

 

 

夕渚 プール掃除の 音遠く

砂浜の 朝日に 目覚め 外寝かな

日の出待って 泳ぐ子もあり 夏の海

外ねとは文字通り家の中ではなく、夜風の涼しい縁台などの屋外で寝ることをいう。
これが夏の季語となっている。今ではあまり見かけなくなったが、気候の良い外国などではよく見られる光景だという。
そういえばここ御宿町でも夏になると貧乏旅行の学生や人目を気にせずワイルドに振る舞う若者が時折浜辺で外寝していたのを思い出す。

 

 

平成19年に夏の民宿を終える

通常編

ひたひたと 夏の夜雨(よさめの 訪ね来る

夜寝ていると窓の下にだれかがひたひたと忍び寄ってくる気配を感じて 私は顔を上げて周囲に注意をはらう。
少し緊張して更に耳を澄ます。
そしていつのまにか降り始めた夜雨がひたひたと 窓の下の地面を打っている音だと知る。

 

 

あさがおの青見付たる 海の家

ハイビスカス 昨日の花を 落とし蹴り

ヒマワリの 日差しざらりと葉に受ける

毎朝ひまわりに水をやっている。他の植物に比べて水を大量に消費するらしい。
鉢の中の土はいつも乾ききっている。あの大きな葉っぱから水分が蒸散していくのだろう。
水をやるときときどきその大きな葉に顔が触れることがある。
厚くてざらりとした触感だ。

 

 

睡蓮に 午後の陽光 かぶさりぬ

梅雨空を ざぶと引き裂き 川の鯉

駅の近くにあるドラッグストアーへ川沿いの遊歩道を ヘルパーと一緒に歩いているときだった。
大きな水音が川の方から聞こえた。
「なんだろう。」と二人で話していると、少し間をおいて、再び大きな水音が二度聞こえて、
大きな真鯉と緋鯉が続けざまに跳ねた。
昨日の雨で川の水が増していた。曇天の空からはぽつりぽつりと暖かな雨が落ち始めていた。
その時大きな色のちがう川の鯉が相次いで跳躍したのだ。
静かな川辺の風景を荒々しく引き裂くようにその水音は辺りに響いていた。
その水音を聞いたことで 遊歩道を歩いていた私たちもその引き裂かれた風景の一部になってしまったような気がした。

 

 

樹下闇(こしたやみ ぬりかべのごと 囲まるる)

数年前に治療に来ていた高齢の女性から聞いた話。彼女の家は牛乳屋で若い頃は自ら牛乳配達をやっていたそうだ。
仕事を終えて早朝に造り酒屋に向かう坂を歩いて下りていたときだった。
周囲はには木立が密生しそのしたは暗く闇を落としていて、やけに自分の足下が暗いと感じていたという。
そのうちにますます暗さが増してきて、真っ暗になり、いつまで歩いても容易に闇から抜け出せなくなったという。
少しして霧が晴れたように闇が消えて、気が付くと坂の下に立っていたという。
水木しげるの書く漫画に出てくる妖怪ぬりかべのような話である。
水木しげるは戦争中ジャングルで似たような体験をしたという。

 

 

夏の空 アップルパイの 光降る

西欧ではりんごは黄金の太陽の象徴とか。
隣家から手作りのアップルパイをいただいた。

 

 

階段の きしみ健やか 女学生

別荘の こんなところに 今年竹

知人の別荘を訪ねると 玄関のドアのすぐわきに人差し指ほどの細い竹がひざほどの高さに伸びていた。
このまま切らずにおくと竹林のようになってしまうぞとおどかしてやった。

 

 

金平糖の 角(つの)より細し夏の雨

草の葉に 蝶の羽にと 夜露降る

ルリシジミ 朝日に当てし 羽の露

ルリシジミは抜けるような空色をした羽を持つ蝶。大きさは12ミリから19ミリ。
さなぎで越冬し、三月から10月まで全国的に生息している。

 

 

オリーブに クモの巣ふわり 夏の空

朝の涼しい頃 オリーブに水やりをしようとして少し顔を近づけると頬にふわりと当たる物が、クモの巣だった。
しかしなんとも綿菓子のようなふわりとした触感であった。

 

 

竹林に 鷺の子育て 夏日誌

今夏も白鷺の一団が河口近くの松林で子育てキャンプ。
鳥の生態を調べているのだろう。それらしい人が時折定点観測をしている姿が。
また川を挟んだマンションの住民からはよく取りの様子が一眸できるらしく、「いつのまにか数が増えているのよね。」と話す奥様もいたりして。
 

 


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